繰上げ受給

繰上げ受給11「障害年金が受給できなくなる?」

老齢年金を繰上げ受給すると障害年金が受給できなくなるといわれますが、それは本当なのでしょうか?

障害年金を受給するには、その障害の基になった病気やケガで初めて医師の診療を受けた「初診日」において、障害厚生年金であれば厚生年金の加入者であること、障害基礎年金であれば国民年金の加入者であることが必要です。これを「初診日要件」などといいます。

国民年金は、自営業などの1号加入者や専業主婦などの3号加入者は、60歳になると加入者でなくなります。厚生年金に加入する会社員などの2号加入者も、60歳で退職して厚生年金加入者でなくなれば、それ以後は国民年金加入者ではありません。こうなると、60歳以後に初診日があっても障害基礎年金は受給できないことになります。

仮に65歳以後に初診日があった場合、65歳以後はすべての人が最低でも老齢基礎年金によって生活保障されているため、障害年金が受給できなくても致し方ないかもしれません。ただ、60歳から65歳になるまでの間に初診日がある場合には、障害年金による保障があってしかるべきだと思います。そこで、60歳から65歳になるまでの間に初診日がある場合には、その時点において国民年金加入者でなくても障害基礎年金が支給されることになっています。

老齢年金を繰上げ受給すると、この初診日要件による障害基礎年金は支給されません。65歳前に繰上げ受給をした人は、年金額が減額されてはいるとはいえ、老齢年金によって生活保障されている点に関しては65歳以後の人と同じだとして、この初診日要件による障害基礎年金は支給されないのです。

ちなみに、60歳以後も厚生年金加入者として会社に勤めている人は国民年金の2号加入者です。このとき初診日があれば、繰上げ受給をしているかどうかにかかわらず。初診日において国民年金加入者ですから障害基礎年金を受給できます。繰上げ受給をしたからといって、障害年金が一切受給できないわけではありません。

なお、障害年金には、障害の程度が徐々に重くなって65歳前に等級に該当したとき、65歳前に請求することによって受給できる、「事後重症」による障害年金というものがあります。老齢年金を65歳前に繰上げ受給した人は、上と同じ理由で65歳以後の人と同じだとして、事後重症による障害年金は支給されません。

繰上げ受給10「加給や振替加算は繰上げ受給の影響なし」

たとえば、老齢厚生年金を受給している夫が65歳未満の妻の生計を維持していると、夫の老齢厚生年金にいわば扶養手当に当たる「加給年金額」が加算されます。なお、夫が昭和24年4月2日以後生まれである場合は、加給が加算されるのは65歳からです。

この加給は、妻が65歳になると加算されなくなります。妻が最低限の老後保障に当たる老齢基礎年金を受給できるようになるからです。ただし、昭和41年4月1日以前生まれの妻は、専業主婦が国民年金の強制加入者とされた昭和61年4月1日時点において20歳を超えていたため、以後60歳に達するまでの期間が40年未満であり、その期間だけでは老齢基礎年金が満額になりません。

そこで、加給対象者のうち昭和41年4月1日以前生まれの人の老齢基礎年金に、生年月日に応じて計算される額が加算されます。あたかも、夫の年金の加給が妻の年金に振り替わるように見えることから、この加算額を「振替加算額」といいます。

「加給年金額」は、老齢厚生年金を繰上げ受給しても65歳から通常の額で加算されます。また「振替加算額」も、老齢基礎年金を繰上げ受給しても65歳から通常の額で加算されます。「加給」や「振替加算」には、繰上げ受給は影響しないのです。

繰上げ受給9「0.4%は昭和37年4月2日以後生まれ」

老齢年金を繰上げ受給したときの年金額の減額率が「0.5%」から「0.4%」に改正されるのは、令和4年4月1日です。ただし、「0.4%」とされるのは、令和4年3月31日時点において60歳に達していない人、つまり「昭和37年4月2日以後生まれ」の人です。

昭和37年4月1日以前生まれの人は、令和4年3月31日以前に60歳に達します。なお、年金制度をはじめとする社会保険では、誕生日の前日にその年齢に達するものとされます。繰上げ受給は、最も早くて60歳に達した日に請求できます。昭和37年4月1日以前生まれの人は、令和4年3月31日以前に繰上げ請求をしているかもしれません。そのときの減額率は改正前の「0.5%」です。「0.5%」で繰上げ受給し始めた人の減額率を、途中から「0.4%」に変えることはできないということでしょう。

昭和37年4月2日以後生まれの人は、令和4年4月1日以後に60歳に達します。繰上げ受給できるのは、減額率が「0.4%」に改正される令和4年4月1日以後です。減額率が「0.4%」とされるのは、昭和37年4月2日以後生まれの人です。

なお、たとえば昭和37年4月1日生まれの人は、61歳になる令和5年3月31日に繰上げ請求することもできます。その時点の減額率は「0.4%」ですが、昭和37年4月1日以前生まれの人には「0.4%」の減額率は適用されないので、この人の減額率は「0.5%」です。減額率が「0.5%」なのか「0.4%」なのかは、いつ繰上げ請求をするかではなく、生年月日によって分けられているのです。

繰上げ受給8「累計額の逆転は20年10カ月後に」

老齢年金を65歳前から繰上げ受給した場合の累計額が、65歳から通常受給した場合の累計額に逆転されるのは、何歳何カ月から繰上げ受給をしたかにかかわらず、繰上げ受給開始から「16年8カ月後」でした。ただし、これは繰上げ受給による年金額の減額率が「0.5%×繰上げ月数」だったからです。

令和4年4月1日、繰上げ受給による減額率が「0.4%×繰上げ月数」に変わります。65歳から通常受給する場合の年金額を100%とすると、たとえば60歳から繰上げ受給をした場合の年金額は、老齢厚生年金も老齢基礎年金も76%になります。二つ合わせると「152」です。65歳時点の累計額は、繰上げ受給が「152×5年=760」であるのに対し、65歳からの通常受給の累計額は「0」です。

ただし、老齢厚生年金と老齢基礎年金を合わせた年金額は、繰上げ受給が「152」であるのに対し通常受給は「200」であるため、65歳以後は通常受給の累計額が繰上げ受給の累計額に毎年「48」ずつ追いついてきます。

こうなると「760÷48=15.83年後」に通常受給の累計額が繰上げ受給の累計額を逆転します。65歳から15.83年後ということは、繰上げ受給を始めた60歳からいうと20.83年後、つまり20年10カ月後です。平均余命が伸び、減額率が小さくされ、累計額の逆転時期が遠くなったのです。

繰上げ受給7「令和4年:0.5%の減額率が0.4%に」

老齢年金を繰上げ受給した場合、年金額が「0.5%×繰上げ月数」の割合で減額されますが、令和4年4月1日、この減額率が「0.4%×繰上げ月数」に変わります。令和2年の年金法改正によるもので、令和4年度から実施される改正点の一つです。

たとえば、特別支給の老齢厚生年金が支給されない完全65歳支給の人が60歳になった月に繰上げ請求をした場合、今までは「0.5%×60月=30%」減額され70%の年金額とされていたものが、「0.4%×60月=24%」減額されて76%の年金額になるのです。今までと比べ減額率が小さくなり、受給できる割合が大きくなります。

繰上げ受給による年金額の減額は、65歳前から繰上げ受給をしても65歳から通常受給をしても、平均余命までの受給累計額を同じにするための調整です。現在の減額率は平成13年に定められた率です。そのときと比べ平均余命が伸びたため、減額率が小さくされるのです。

繰上げ受給6「累計額の逆転は16年8カ月後で同じ」

63歳から特別支給の老齢厚生年金が支給される人が、60歳から繰上げ受給をした場合、老齢厚生年金の年金額は「0.5%×36月=18%」減額されて82%となり、老齢基礎年金の年金額は「0.5%×60月=30%」減額されて70%になります。2つ合わせると「82+70=152」です。

65歳時点の受給累計額は、繰上げ受給が「152×5年=760」であるのに対し、通常受給は63歳から特別支給の老齢厚生年金が支給されるため「100×2年=200」。繰上げ受給の累計額が通常受給の累計額を「760-200=560」上回っています。

 

ただし、年金額は、繰上げ受給が「152」であるのに対し通常受給は「200」であるため、65歳以後は通常受給の累計額が繰上げ受給の累計額に毎年「48」ずつ追いついてきます。

こうなると「560÷48=11.66年後」に通常受給の累計額が繰上げ受給の累計額を逆転します。65歳から11.66年後ということは、繰上げ受給を始めた60歳からいうと16.66年後、つまり16年8カ月後です。特別支給の老齢厚生年金が支給される人の場合も、受給累計額が逆転するのは、繰上げ受給開始から16年8カ月後というわけです。

繰上げ受給5「特老厚が支給される世代の繰上げ受給」

老齢厚生年金と老齢基礎年金は65歳から支給されますが、生年月日によっては65歳前に「特別支給の老齢厚生年金」が支給される人がいます。

昭和28年4月1日以前生まれの男性および昭和33年4月1日以前生まれの女性には、60歳から65歳になるまでの5年間、「特別支給の老齢厚生年金」が支給されます。この人たちは、老齢厚生年金を繰上げ受給することはできません。繰上げ受給できるのは老齢基礎年金だけです。

昭和28年4月2日から昭和36年4月1日までの間に生まれた男性、および昭和33年4月2日から昭和41年4月1日までの間に生まれた女性には、61歳以後の生年度に応じた年齢から65歳になるまでの間、「特別支給の老齢厚生年金」が支給されます。

たとえば、昭和32年4月2日生まれの男性には、63歳から65歳になるまでの2年間、「特別支給の老齢厚生年金」が支給されます。この人は、63歳前であれば老齢厚生年金を繰上げ受給できます。このときは老齢基礎年金を一緒に繰上げ受給します。63歳以後は、老齢厚生年金は繰上げ受給できません。63歳から特別支給の老齢厚生年金が支給されるのですから、そもそも繰上げ受給する意味がありません。63歳以後に繰上げ受給できるのは老齢基礎年金だけです。

この人が仮に60歳になった月に繰上げ請求をすると、老齢基礎年金の減額率は「0.5%×60月=30%」ですが、老齢厚生年金の減額率は「0.5%×36月=18%」となります。「36月」は、繰上げ請求をした60歳到達月から特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢である63歳到達月の前月までの月数です。

これでは、あたかも63歳からの特別支給の老齢厚生年金を3年(36月)繰り上げたように見えますが、繰り上げたのはあくまでも65歳から支給される老齢厚生年金です。それを繰上げ受給したこの人には、63歳から支給されるはずだった特別支給の老齢厚生年金は支給されなくなります。ただし、繰上げ受給をしなければ63歳から特別支給の老齢厚生年金が支給されたことを考慮して、減額率に反映する月数は「36月」とされるのでしょう。

なお、繰上げ受給をする65歳からの老齢厚生年金の年金額は、報酬比例部分と経過的加算額という2つの部分で構成されています。上記の例で「0.5%×36月=18%」減額されるのは報酬比例部分です。経過的加算額については老齢基礎年金と同様に「0.5%×60月=30%」減額されます。

繰上げ受給4「累計額の逆転は常に16年8カ月後」

老齢厚生年金や老齢基礎年金を65歳から通常受給した場合の累計額が、65歳前から繰上げ受給をした場合の累計額を逆転する時期は、何歳何カ月から繰上げ受給をしても、必ず繰上げ受給開始から16年8カ月後です。

たとえば62歳から繰上げ受給をした場合の年金額は、老齢厚生年金も老齢基礎年金も「0.5%×36月=18%」減額されて82%になります。二つ合わせて「164」です。65歳時点の累計額は、繰上げ受給が「164×3年=492」であるのに対し、65歳からの通常受給の累計額は「0」です。

 

ただし、老齢厚生年金と老齢基礎年金を合わせた年金額は、繰上げ受給が「164」であるのに対し通常受給は「200」であるため、65歳以後は通常受給の累計額が繰上げ受給の累計額に毎年「36」ずつ追いついてきます。

こうなると「492÷36=13.66年後」に通常受給の累計額が繰上げ受給の累計額を逆転します。65歳から13.66年後ということは、繰上げ受給を始めた62歳からいうと16.66年後、つまり16年8カ月後です。

繰上げ受給3「受給累計額は何年で逆転?」

老齢年金を繰上げ受給すると年金額が減額されますが、65歳より早くから受給しているため、「受給累計額」については通常受給より繰上げ受給のほうが先に積み上がります。

65歳から通常受給する場合の年金額を100%とすると、たとえば60歳から繰上げ受給をした場合の年金額は、老齢厚生年金も老齢基礎年金も70%になります。二つ合わせると「140」です。65歳時点の累計額は、繰上げ受給が「140×5年=700」であるのに対し、65歳からの通常受給の累計額は「0」です。

ただし、老齢厚生年金と老齢基礎年金を合わせた年金額は、繰上げ受給が「140」であるのに対し通常受給は「200」であるため、65歳以後は通常受給の累計額が繰上げ受給の累計額に毎年「60」ずつ追いついてきます。

こうなると「700÷60=11.66年後」に、通常受給の累計額が繰上げ受給の累計額を逆転します。65歳から11.66年後ということは、繰上げ受給を始めた60歳からいうと16.66年後、すなわち16年8カ月後です。

受給累計額に限っていえば、60歳から16年8カ月後、つまり76歳8カ月より早く死亡した場合は繰上げ受給をしても問題なかったことになり、76歳8カ月より長生きすると失敗だったことになります。ただし、これはあくまでも一つの物差し、参考材料の一つです。

繰上げ受給2「繰上げ受給による年金額の減額」

65歳から支給される老齢厚生年金と老齢基礎年金を「繰上げ受給」すると、年金額が「0.5%×繰上げ月数」の割合で減額されます。

「繰上げ月数」は、繰上げ請求をした月から65歳になる月の前月までの月数です。繰上げ受給できるのは60歳以後です。たとえば、60歳になった月に繰上げ請求をした場合の繰上げ月数は、60歳になった月から65歳になる月の前月までの月数ですから60月です。この場合の減額率は「0.5%×60月=30%」です。

繰り上げをせず65歳から通常受給する年金額を100%とすると、5年早く60歳から繰上げ受給した場合の年金額は、30%減額されて70%になるというわけです。減額は一生涯続きます。

なお、老齢厚生年金と老齢基礎年金は一緒に繰上げ受給しなければなりません。どちらか片方だけを繰上げ受給することはできず、また、たとえば老齢厚生年金を60歳から、老齢基礎年金を61歳からなどと、別々の時期から繰上げ受給することもできません。

ちなみに、令和4年4月1日以後に60歳になる昭和37年4月2日以後生まれの人は、減額率が「0.4%×繰上げ月数」となります。これに関しては別ページをごらんください。